秋は、健診の結果が返ってくる季節です。
面談をしていると、この時期いちばんよく聞く言葉があります。
「まあ、歳ですからね」
笑いながら言われることが多いのですが、私はこの言葉を、長いあいだうまく受け止められずにいました。否定すれば説教になるし、そのまま流せば話が終わってしまうからです。
最近、この言葉への返し方が少し変わりました。きっかけは、健診のデータを30年以上見てこられた平井学先生から聞いた、ひとつの言い方です。
「生活習慣病というのは、老化の早期化です」
「歳だから」は、半分あたっています
血圧が上がる。血糖が上がる。肝臓の数字が動く。
こうした変化は、たしかに年齢とともに起こります。その意味で「歳だから」は間違っていません。
ただ、同じ50歳でも、体の進み方は人によってずいぶん違います。
健診の数字を並べて見ていると、それがはっきり分かります。同じ年齢なのに、10年先を歩いている人がいる。逆に、数字の上ではずっと手前にとどまっている人もいる。
つまり、起きていることは「病気になった」というより、歳のとり方が、人より少し速いということなのだと思います。
そう考えると、健診の結果の見え方が変わります。
あの紙は、自分がいま、どのくらいの速さで歳をとっているかの目じるしなのだと。
同じ生活でも、出る人と出ない人がいます
もうひとつ、この考え方でよかったと思っていることがあります。
責める話にならないことです。
これまで、私たちはこう言ってきました。
「生活習慣を改善しましょう」
悪気はありません。でもこの言葉には、「できていませんね」が隠れています。言われた側はたいてい黙り込むか、「わかってはいるんですけどね」と返します。
けれど実際には、同じものを食べて、同じように飲んでいても、数字に出やすい人と、出にくい人がいます。体質の差です。
だとすると、伝え方はこう変わります。
「あなたは、この生活の影響が出やすい体質です」
できていない人、ではなく、影響が出やすい人。これは、責めていません。
そして、そのまま次の一言につなげられます。
「だから、あなたには早く手を打つ意味があります」
私はこの順番になってから、面談で黙られることが減りました。
数字を下げることが、ゴールではありません
ここが、いちばんお伝えしたいところです。
私たちはつい、健診の数字が下がれば成功だと考えます。会社の健康づくりも、有所見率が何%下がったかで評価されがちです。
でも、数字が下がった先にも、まだ線があります。
「ここまでなら戻せる」という線です。数字を正常に戻しても、その線を越えたあとだと、その後の経過が変わりにくい人がいます。平井先生は、データをそう読んでおられます。
治療に意味がない、という話ではありません。線の手前で動くことに、意味があるという話です。
数字を下げるのは、歳のとり方をゆっくりにするための手段です。
私が現場で見てきた、変わる人は、たいてい、小さく地味なことを1つだけ変えています。
夕食の時間を30分早める。
昼休みに、いったん外に出る。
寝る前のスマホを、枕元から2メートル離す。
置き場所とタイミングを、少し動かす。続く人は、だいたいこちらです。
将来が決まるのは、働いている間です
そしてもうひとつ、私が会社の方にお伝えしたいことがあります。
高知県の健診データを10年追った分析(平井学先生のお話)では、その人の将来が方向づけられるのは、おおよそ50歳までの期間と読み取れます。
この期間は、そのまま働いている期間と重なります。
つまり、いちばん効く時期に、その人に毎年会えるのは会社だということです。病院ではありません。家族でもありません。年に一度、必ず健診で会えるのは職場です。
これは、責任が重いという話ではなくて、手を打てる場所にいるという話です。
会社にできることは、個人に頑張らせることではありません
では、何をすればいいのか。
「社員に健康意識を持たせる」という方向に行きがちなのですが、私は、そこは後まわしでいいと思っています。
先にできることが、いくつもあります。
休憩が、まとめて取れているか。
夜勤明けの人が、明るいうちに眠れる環境があるか。
自販機と、その横にある物が、何になっているか。
健診の結果を、渡して終わりにしていないか。
どれも、本人の意志とは関係のないところです。そして、お金をかけずに変えられるものが、けっこうあります。
条件を変えた対策は、続きやすいです。
これは、健康づくりに限った話ではないような気もしています。
目じるしは、「なんとなく、だるい」
最後に、いちばん早く出る目じるしのことを書いておきます。
面談でよく聞くのは、この言葉です。
「なんとなく、だるいんですよね」
検査の数字は、どこも引っかかっていない。病院に行くほどでもない。でも朝がつらくて、休んでも戻らない。
以前の私は、こういうとき正直なところ困っていました。数字に出ていないので、話すことがなかったからです。
いまは、少し違います。
疲れが抜けないという状態と、健診の数字が動いていく過程は、体の中で起きていることとして重なるところがあります。だとすると、その一言は、数年後の健診結果の話を、いまご本人の言葉で聞いているのかもしれません。
そう思うようになってから、この言葉を聞き流せなくなりました。
健診の結果と、疲れ。どちらも、歳のとり方の速さを教えてくれます。
早く気づくほど、打てる手が多く残っています。
あなたの職場で、最近「なんとなく、だるい」と言った人は、いませんでしたか。
